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福岡高等裁判所 昭和58年(行コ)5号 判決 1983年9月28日

控訴人(原告) 工藤武男

被控訴人(被告) 別府市長 外一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、

「一 原判決を取り消す。

二 被控訴人別府市長は、別府市亀川浜田町九九一番地の地先の公有水面埋立地A地区及び同市亀川古市町九二〇番地の四地先の公有水面埋立地B地区に開設を計画している別府市公設地方卸売市場の開設事業に関して、公金を支出し、契約を締結若しくは履行し、債務その他の義務を負担し、又は地方債起債手続を採つてはならない。

三 被控訴人脇屋長可は、被控訴人別府市長が前項の行為を行つたときは、別府市に対し、金五、〇〇〇万円を支払え。

四 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」

との判決を求め、被控訴人らは、主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人の主張)

一  本件市場開設計画において、本件地方債の元利金の償還は、すべて一般会計からの繰入れによつて行われ、かつ、経常収支ですら赤字になるので、一般会計からの繰入れは、右地方債償還分以外の経費についても半永久的に発生することからも、本件市場開設計画は、公営企業の独立採算制の原則を定めた地方財産法六条に違反する。

二  また、市場事業という公営企業における受益者の中に、市場業者のみならず、地域住民をも含め、受益者概念を無限定に広く解し、市場事業経費について何らの制約も具体的な検討もなしに一般会計からの全面的繰入れを容認することを前提として、地方財政法六条を解釈することは許されない。

(被控訴人らの主張)

控訴人の右主張は、争う。

(新たな証拠)<省略>

理由

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求はいずれも適法ではあるが、理由がないものとしてこれを棄却すべきものと認定判断するところ、その理由は、次に付加するほかは、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。

二1  原判決一五枚目裏四行目の次行に、次のとおり加える。

「なお、地方自治法二四二条の二第一項二号の差止め請求は、当該行為がなされる以前か、それがなされつつあるときにのみ認められ、当該行為がなされた後には、その差止め請求はできず、違法行為の差止めの訴訟係属中にその行為がなされ、終了したときは、その訴えの利益は消滅に帰するものと解すべきであるが、成立に争いのない乙第一一七、一一八号証及び弁論の全趣旨によれば、本件市場は昭和五八年二月竣工し、同年三月二四日竣工式が挙行されたものの、地方債起債手続、公金の支出等の行為は残存していることが認められるから、いまだ訴えの利益は、存するものと解するのが相当である。

2  同一七枚目表二行目の次行に、次のとおり加える。

「なお、控訴人は、本件地方債の元利金の償還はすべて一般会計からの繰入れによつて行なわれ、かつ、本件市場計画は、経常収支ですら赤字になるので、一般会計からの繰入れは、右地方債償還分以外の経費についても半永久的に発生する旨主張するが、成立に争いのない乙第九八号証及び原審証人藤沢宏之の証言を総合すれば、本件市場の経営において昭和七八年度以降一般会計からの繰入金を越える利益が生ずるものと試算されていることが認められる。」

3  同一八枚目裏六行目の「他の公営企業と異なるのであるが、」の次に、「卸売市場の活用による流通の合理化がひいては一般住民の利益につながることは否定できず、」と加える。

4  同一九枚目裏八行目の「右通知は、」の次に、「最近における社会経済情勢の推移及び地方公営企業に対する毎年度の一般会計からの繰出しが多額になつている現状に鑑み、」を加える。

5  同二〇枚目表二行目の「定めたものであつて、」の次に「法的拘束力を有するものではなく、」を加える。

三  よつて、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法九五条、八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 矢頭直哉 諸江田鶴雄 日高千之)

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